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天女降臨 04

「やー。昨日はすごかったな。」
「ズーチューブもずーっと読み込み画面がくるくる回ってて。」
「しまいにゃ、お猿さんみたいなエンジニアのイラストが出てきて、 something went wrong. だってさ。」
「ズーメイルも届かなくなった。」
「ズーズルドライブもアクセスできなくなった。」
「やばかったな。」
「でももう復旧したんだろ。」
「ああ。」
「ズーズル落ちたら会社も学校も休みになるんじゃないか。」
「このご時世、会議も授業も遠隔のところが多いからなあ。」
「ズーズルもたまには落ちるってことがあるんだなあ。」

昨日の今日。月曜日の朝。世界中がその話題でもちきりだった。

ズーズルもたまには落ちるって?
そんな生やさしい問題じゃない。
加奈子の予言が的中したのだ。
ほんとに加奈子がやったのか?
たまたまじゃないのか?

ズーメイルもズーズルドライブもこれまで何度か調子が悪かったことがある。でもすぐに直ったけどね。それが今回たまたま大規模に起きただけなのではないか。

ズーズルもサービスを拡げすぎて、負荷が限界を超えてしまったんじゃないか。それで最近は次々と、無料サービスの打ち切りを決めて、有料サービスに移行している。そういうことだろ?

喉元過ぎれば熱さ忘れる。みんなもうズーズルのサーバーダウンのことなんてかまってられない。みんな好き勝手にスマホをいじってる。

月曜は週の初めで、かったるいから午前の授業を取らないやつが多い。でも俺は1限から6限まできっちり授業を受けて、それから電脳研へ顔を出した。

そしたら加奈子がもういた。

「やっほー。」
加奈子はやけに上機嫌だ。というより無駄にテンション高い。
加奈子はサムズアップして俺にニコっと笑いかけた。
「ねっ。ほんとに落ちたでしょ。」
「落ちたね。」
「これで私の実力わかった?」
「まぐれ当たりだろ。」
「まぐれでもマグロでも目黒のサンマでもないわよ。今度は富士山だから。派手にやるわよどーんと派手にぶちかますわよ。」

まじかよ。

加奈子が謎の親父ギャグをかますときは要注意だ。

「あっ。根岸君。話は平岡から聞いた。」加奈子が根岸の背中をぽんっとたたいた。

申し遅れたが、俺の名はフルネームで平岡卓也。以後お見知りおきを。

人前では、加奈子は俺を「平岡」と呼び、俺も加奈子を「氷室」と呼ぶことが多い。

どの話?」
「電飾のデザインよ。」
「やってくれるのかい。」
「うん。で、何をやれば良い?」
「もうおおかた素材はできあがってるんだ。つまりこれ、いろんな色のLEDを等間隔に配置したケーブル。これが電飾の素材。だから君には、メインのデコレーション、たとえばサンタとトナカイとソリ、みたいな図案を考えてほしいんだ。」
「クリスマスにサンタとトナカイじゃありきたりじゃない?」
「えっ?」
「トナカイが馭者(ぎょしゃ)でサンタがソリを引いてるのってどうかな。」
「勘弁してくれよ、氷室さん。もう少し一般人受けしそうなデザインにしてもらわないと。売れ残っちゃうよ。あとね、あまり複雑なデザイン考えられても困る。あくまでも電飾で表現できるような、シンプルなキャラを使ってほしい。星とか。雪だるまとか。靴下とか。」
「いろいろと制約が多いのねえ。そんなんじゃ別に私が作らなくても、誰が作ってもおんなじじゃないかしら。」
「ミッフィーちゃんもキティちゃんも見た目は大して違わないし、誰でも思いつきそうなシンプルなデザインだろ。でもデザインはデザインだし、違いはある。デザインってのはそういうものだと思わないか?無理して何か奇抜で複雑なものなんて作る必要ないのさ。」
「そういうものかしら。」
「それに氷室さんがデザインしたって事実が重要なんだよ。」
「私が?なぜ?」
「わかるだろ。僕がデザインしたって商品価値はないのさ。」
「そういうもんなの?」
「そういうものさ。世の中の商売なんてものは。タレントショップとか、タレント本とかさ。キャラクターグッズと同じで、誰が作ったか、作った人にどんな価値や魅力があるかってことが重要なのさ。」
「ふーん。」加奈子はまだ全然納得してなさそうだ。「じゃあ、ロリータなサンタってどうかな?」
「へっ?ロリータ?」
「私これでも、ロリータファッションなら詳しいわよ。」
「それって成人指定?歌舞伎町のキャバクラとかでキャバ嬢が着るような?」
「違うわよ。れっきとしたストリートファッションの一種。」
「ストリートファッション?」
「なんにも知らないのね、あんた。広告代理店が流行らせたファッションじゃなくて、渋谷や原宿とかの路上にたむろする若者から自然発生的に生まれてきたファッションのことよ。秋葉で流行ってるメイド服なんかも、そのストリートファッションの一部と言えるわね。とっくに成人済みのおばさまにも、人気あったりするんだけど。
ストリートファッションはいわば、マスコミ時代ではなくポストマスコミ、SNS時代の産物よ。
サブカルチャーとかアンダーグラウンドカルチャーものは、しばしばメインカルチャーから「オタク」よばわりされ攻撃をうける。でも、私たちがやってることはいかがわしかったり、エロかったり、まして、フェミニストのおばさまたちに咎められるようなもんじゃないわ。ましてや、まして、いわゆるロリコン、ロリータコンプレックスのロリータとは全然別物。ネクラなアニオタやすけべおじさんたちの性的消費商品じゃないの。私たち自身がやりたいからやってる。自己主張。」
「なるほどね。そう言ってくれりゃ僕にもよくわかる。でも、メイドもロリータも似たようなもんじゃないの?どっちもアニメの影響で出てきたコスプレ。」
「アニメとかコスプレでひとくくりにされるのは心外ね。私のは自己表現。」
「あー。氷室さん。困るんだよね。そういう自己表現とか自己実現とか言い出されると。それってつまり、自己満足、ってことでしょしょせん。一般受けしなくなって売れなくなっちゃう。
話は戻るけどさ。コンセプトを忘れてもらっちゃ困る。僕たちは「作る」んじゃない、「売る」んだよ。これは単なるマーケティングなんだよマーケティング。電飾は飽くまでも手段であって目的ではない、我が電脳研にとって。「チャリティー」と言う名の金儲けなの。愛は地球を救うの。」

ははは。「企画会議」にいきなり熱が入り始めたな。

「これは手段、これは目的ってわける意味あんの?」
「いいかい、今回僕たちがターゲットにしているのは、一般家庭。しかも、まだこの世にサンタがいるかもしれないって信じてるちっちゃな子供がいる。パパとママは、育児は大変だけど、もう二度と戻らない今この時を、一生の思い出にしようって張り切ってる。そういう一家団欒、幸せいっぱいなパパとママに買ってもらうんだ。
そういう購買対象を明確にしないと、何を作りゃいいのか、グダグダになっちまう。マニアックなものを作って売れ残って赤字が出ちゃ、デザイナーやクリエイターたちの才能を上手に引き出せなかった、プランナー兼プロデューサーの僕の責任になっちまう。この企画自体が続けられなくなっちまう。果ては、この電脳研の存続にも影響が出るんだよ。周りから見て、あのサークルいったい何やってるかわからないから潰しちまえってことになる。」
「よくもまあそんな悲観的なことばかり思いつくものね。そんな守りに入っててどうするのよ、たかが高校の部活じゃないの。」
「君も僕にダメだしされて作り直すのが嫌なら僕の言うことを最初から素直に聞いてくれ。そういう役割分担なんだ僕と君は。
その前提は外せない。
それに時間が迫っている。何度もダメだしできる時期をとっくに過ぎてるんだ。一発で決めてくれ。でなきゃしかたない。やめてもらうしかない。
もし君が、僕の言うことを無視して、自分の好きなように作りたいんなら、売れなかったときには君が売り上げを補填してくれるって保証してくれ。それなら君が自由にデザインしていい。僕はいっさいダメだししない。」
「良いわよ。やってやろうじゃないの。もし売れないときは、わたしがロリータファッションに身を包んで、秋葉の路上で売り子になって売ってやるわ。」
俺は根岸に耳打ちした。「これはチャンスだ。加奈子は秋葉でダントツ、ナンバーワンの地下アイドルだ。彼女が路上パフォーマンスすれば必ず完売する。」
「ほんとか?」
「ああ。やらせろ。」
「途中からやっぱりやめるって言わないか?」
「加奈子は嘘はつかない。」妄想癖はあるがな。
「そうか。」

根岸はえへんと咳払いした。「なあ。氷室君。やっぱりやるなら徹底的にやらなきゃな。ほんとに君にまかせていいのか。」
「もちろんよ。合点承知の助よ。」
ガッテンショウチノスケ?加奈子はときどき意味不明なことを言い出す。まあ、かぐや姫なんだから仕方ない。
「あとでやーめたとか言わないよな?」
「いいませんよ。」
「よし。じゃあその方向で。」
「てってー的にやるわよ、テッテー的に!」

天女降臨 06