古代ローマ帝国からの連続性を保ちつつ、中世、東ローマ帝国は徐々に衰微し、ギリシャ人中心の国家に変容していく。 東西教会は分裂し、西や北からはノルマン人が、東からはトュルク人が、南からはアラブ人が次第に「ローマ」を蚕食していく。 マラズギルトの戦いでセルジューク軍に惨敗したアレクスィオス(従軍当時は青年武将、のちに皇帝)は、ノルマン人やローマ教皇と和解して、セルジュークに報復しようと考える。これが二百年にわたって繰り返される十字軍の発端であるが、うまく立ち回ろうとしたアレクスィオスの意図に反して、東ローマにはなんら益するところなく、セルジューク族やノルマン人らに旧東ローマ領を分け与えただけであった。
本書は十字軍が始まる直前までで擱筆している。ノルマン人やセルジューク族についても必要最小限の記述にとどめた。本書で筆者は、エウドキアという一人の女帝の一代記の形を借りて、東ローマという中世東欧のギリシャ人の国家を描いてみるが、或いは第一次十字軍の前史、もしくは「十字軍外伝」として読んでもらうのが好都合かと思う。史実にできるだけ忠実に沿うようにしたが、物語として成立させるために、若干の脚色はある。
主な登場人物
- エウドキア・マクレンボリティッサ 東ローマ帝国の女帝。
- ミカエル・ケールラリオス コーンスタンティヌポリス総司教。エウドキアの叔父。
- コーンスタンティノス十世ドゥカス ドゥカス家の家長。エウドキアの夫。東ローマ皇帝。
- ローマノス四世ディオゲネース エウドキアの夫。コーンスタンティノスの次の皇帝。
- ヨハネス・ドゥカス コーンスタンティノスの弟。
- アンドロニコス・ドゥカス ヨハネスの子。
- マリア ブルガリア王女でアンドロニコスの妻。
- エイレーネー・ドゥカイナ アンドロニコスとマリアの子。アレクスィオスの妻。
- ミカエル七世ドゥカス コーンスタンティノスとエウドキアの子で、ローマノスの次の皇帝。
- マルタ ミカエルの皇后。グルジア王女。
- ニケフォロス三世ボタネイアテス ミカエル七世の次の皇帝。
- アレクスィオス・コムネノス ニケフォロスの次、第一次十字軍当時の東ローマ皇帝。
- ドメニコ・セルヴォ ヴェネツィア共和国の元首。コーンスタンティノスの相談役。
- テオドーラ・ドゥカイナ コーンスタンティノスの次女、ドメニコの妻。
- ゾーエー・ドゥカイナ ミカエル七世の妹。アレクスィオスの弟アドリアヌスの妻。
- アルプ・アルスラーン セルジューク朝のスルターン
- ニザームルムルク アルプ・アルスラーンの宰相
- スレイマーン トュルク族の首長
アレクスィオスと同時代に生きたエウドキアは、古代ギリシャ神話に耽溺した、一人の文学少女だった。彼女はギリシャ人の娘に生まれ、一時はローマの女帝として栄華を極めたが、最後はギリシャの古典を愛した一人の文学少女として死んだ。

