閉じる

絵に人物を足す

最初はAIに写真を見せて川瀬巴水風の絵にしてもらうだけで面白かったのだが、巴水という人について調べたり、新版画というものがどうやってできてきたかということを知るうちに、いわゆる朱塗りの寺社に雪が降っているなどという絵柄では満足できなくなり、自分もいっぱしの画家のようなことがやりたくなってしまうのである。

clip studio にはもともと 3D の人物を絵の中にポーズをつけて配置させる機能があるから、まずそのありものの人物を立たせて、さらにそれにAIで学生服や浴衣を着せることができるわけである。もともと写真には水鳥が映り込んでいたから、二人の若者が遠景の城や近景の水鳥を眺めているというふうな絵に出来た。

こういう演出は江戸時代の浮世絵から誰もがやってきたことであるが、高校生の男女を描き込むことによってなんとなく新海誠風にも見えてくる。

もともとの写真はもっと青いのだがAIはなぜか黄色っぽく描きたがる。そこで色相をいじると妙な違和感が出る。水と空だけ青くするというのがしかしかなり難しい。AIに頼んでもうまくやってくれない。黄色くするというのはおそらく和紙に版画で印刷した感じを出したいのだろう。黄色くないと今度はクリスチャン・ラッセンのシルクスクリーンのような感じの絵になってしまう。

為替巴水の絵に、蓮池の中に石橋が渡っていて、その途中に浴衣姿の女性が二人立っているというものがあるが、それを真似てみたわけだが、かなり苦労した。gemini は絵を作りすぎて全然ダメだったので、比較的作らない chatgpt でやってみたが、いきなり無課金使用制限がかかり、しかも石橋を描いてはくれたものの非常にデタラメだったので手描きでけっこう直してある。

gemini も chatgpt も蓮を描かせると勝手に花まで描いてしまう。手前には雑草が生えているのにそれも全部蓮にしてしまう。 確かに画面の真ん中から下が全部蓮田だと暑苦しいので、カメラを少し上向きにしたほうが絵的になるのだけれど、なんでもかんでも自動でやられるのは困るのである。

この都庁とか御茶ノ水の絵にしても、こんなに水面に光が映り込むということは現実には有りえない。水に光が映り込むと美しいからわざと誇張している。外灯や窓の灯りなども適度に光らせるのは難しい。明るすぎるか暗すぎるか、全部光っててうるさいか、あるいは黄色すぎたりする。嘘を描いて初めてほんものの風景のように見えてくるのだが、その嘘を描くというのが要は絵を描くということなのだろうと思えてきた。

川瀬巴水という人を調べていくと、というか、今まで全然調べてもいなかったのだが、そんなに難しい人ではない。川瀬巴水的な絵というものはすべて巴水より前から存在していたものであり、巴水が発明したものなどほとんど何もないと言える。

巴水が「東京十二題」などで売れっ子になったのは彼が37才の時であり、画家デビューとしては非常に遅い。それ以前にも絵は描いたはずだがほとんど残っていないのはたぶん絵がつまらなかったせいだろう。実際塩原の絵など見てもただもっさりしているだけで全然おもしろくない。巴水がこんなおもしろくない絵を描く人だったという事実が面白いだけである。巴水の絵はおそらく、巴水が描きたかった絵でもなく巴水が得意とした絵でもなく、売れるから描かされた絵であったろうと思われるのである。

ヨーロッパではゴッホの時代にすでにジャポニズムのブームがあり、日本人が西洋画を学んだ、西洋画法を輸入して日本画を改革したというよりは、西洋人が日本に渡ってきて日本画や浮世絵などを真似て絵を描き始めたのだ。それがエミール・オルリックヘレン・ハイドフリッツ・カペラリチャールズ・ウィリアム・バートレットエリザベス・キースなどの人たちで、そこから日本人は、ジャポニズムというものが金になることを知り、橋口五葉、伊東深水、吉田博などの追随者が現れて、その後に川瀬巴水が出た。巴水は日本人によるジャポニズムをある意味極めたというか完成形を作った人、という位置付けだったと思う。朱塗りの雪景色なども、その萌芽は深水に見られる。

巴水はおそらく写真をトレスしたと思う。トレスしないまでも写真を見ながら肖像画を描くなどということは、私の祖父なども普通にやっていた。今の時代、画家が写真を資料として使うのはごくあたりまえのことで、それにやましい気持ちを持つ人はいないと思う。江口寿史や荒木飛呂彦の例を上げるまでもない。

現代版画などは逆に写真のようなリアリズムというものを嫌うようになってことさら手描きの、デッサンの狂ったような絵を描くようになった。

スティーブ・ジョブズが巴水のファンだったというのもあやしいもので、巴水をちょっと調べれば巴水自身がエポックメイキングであったわけではないことはすぐにわかるはずだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。必須項目には印がついています *